「ピアノはいつできたの?」にどう答えるか〜鍵盤楽器の歴史〜
「ピアノはいつできたの?」
以前このような質問を受けたとき、反射的に1709年と答えたことがありました。確かに私が高校生の頃、「ピアノの誕生は1709年」だと習った記憶がありますが、正確には、
フォルテピアノを世に広めたマッフェイという人物が、製作者のクリストフォリに会って「3台のフォルテピアノを目にした」
のが、1709年なんですよね。
※ちなみに現在の改良された“モダンピアノ”と区別して、この時代の打弦楽器を“フォルテピアノ”と呼んでいます。
実際にはフォルテピアノの製作は1698年頃から始まっていたようで、1700年に発行されたメディチ家の目録で、その存在が確認されています。なので、ピアノの誕生年ははっきり言い切れないものの「1700年頃」が妥当ですが…
ふと、この回答だと、質問の意図とはちょっとズレているんじゃないかな、と思いました。
ピアノとは?
ピアノを弾く人間にとって「ピアノ」とは「ハンマーによる打弦機構を持った鍵盤楽器」のことです。同じ鍵盤楽器でも、発音機構の異なるオルガン(気鳴楽器)やチェンバロ(撥弦楽器)、クラヴィコード(タンジェントと呼ばれる金属片で弦を押し上げて発音する弦鳴楽器)とは一線を画します。
バッハやモーツァルトといった古典派以前の作品は、オルガンやチェンバロ、クラヴィコードを用いて作曲・演奏されていました。楽器としては存在していたものの、フォルテピアノを想定した作品が書かれるのはベートーヴェン以降です。
一方で、一般的に「ピアノ」という言葉が指すのは、「鍵盤のある楽器」つまり鍵盤楽器の総称として用いられているのではないでしょうか?
鍵盤楽器の起源は?
では、鍵盤楽器の起源はいつかと言うと、なんと紀元前3世紀!!!エジプトのヒュドラウリスと呼ばれる水力オルガンだそうです。水の入ったタンクに吹子(ふいご)で空気を送り、水圧で音を鳴らします。演奏は手で弁を開閉することによって行います。
…なんだかバンドネオンみたいですよね?というか手で開閉するのみで、私たちがイメージする鍵盤とはかけ離れているようです。しかもそこまで起源をさかのぼることも、やっぱり質問の意図と違うはず。ならば…
クラシックにおける鍵盤楽器とは
「西洋クラシック音楽」の領域で、鍵盤楽器といえば、オルガン、チェンバロ、クラヴィコード。その起源を答えるのはどうでしょうか?
オルガンは13世紀ごろに、教会の楽器として確立しています。チェンバロは1397年に文書にその名が登場するも起源ははっきりしませんが、全盛期は17~18世紀。クラヴィコードは14世紀に発明されました(ちなみにこの楽器は家庭用(練習用)が側面が強い)。
…ということは、だいたい14世紀くらいが起源ですよね。
結論
鍵盤楽器としては14世紀ごろ…だけど、やっぱりピアニストとしては、「ピアノ」という打弦楽器が生まれたその年を無視するのもちょっと嫌だな。ということで最近は…
「今の形のピアノが生まれたのは1700年頃だけど、オルガンやチェンバロっていうピアノに似た鍵盤楽器が、14世紀くらいから使われてたんだよ」
と、答えることにしています。
もし「ピアノはいつできたの?」と聞かれたとき、参考にしてみてくださいね。質問者が興味を持ってくださったなら、ぜひピアノの歴史も併せて伝えてください。ピアノ好きが、ひとりでも増えますように…
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